CDのジャケットはアレーナ・ダシケビッチさんがデザインしてくれました。
右側、縦書きにベラルーシ語で「月と日」とあります。さりげなくお月様とお日様が文字の中に隠されています。
右上には横書きでトーダル君の本名ズィミツェル・バイツュシュケビッチが載っています。
左下には縦書きに日本語で「月と日」 赤字でしかも赤枠で囲まれていますが、これは日本の浮世絵などの片隅に作者の印が押してあるのを、イメージしてデザインしたそうです。
そして左下に横書きで「WZ-オルキエストラ」とあります。
それからウエストレコード社のシールが貼ってありますが、これがないと海賊版CDですので、皆様お気をつけ下さい。(^^;)
中央右寄りにあるマークが有名な「スカリナ・マーク」です。
16世紀の偉大なベラルーシの学者スカリナは、聖書をベラルーシ語に翻訳し、出版しました。これがベラルーシ語出版物で最初のものです。スカリナは太陽と月を組み合わせたこのマークを考案し、その後も全ての自分の出版物にこのマークをつけました。
現在において「スカリナ・マーク」はベラルーシ語そのものを表すシンボルマークになっています。
つまり、これはベラルーシ語の歌が収録されていることを表しています。
CDのタイトルを「月と日」にしてほしい、と頼んだのは私(辰巳)です。
日本の歌をベラルーシ語に翻訳するに当たり、日本人にもベラルーシ人にも共通して通用する言葉やシンボルがないか、探していたところ、このスカリナ・マークのことを思い出したのです。
日本は「日出る国」と言われていますが、どちらかというと、絵画や詩には「花鳥風月」といって月がよく出てきます。
さらに「月と日」を「月日」と読めば「時の流れ」という意味も出てきます。
それでCDには春夏秋冬の時間に合わせて曲を並べました。(最後の「故郷」だけ季語なし、ですが。)
またタイトルに合わせて意識的に「月」と「日」という言葉が歌詞に出てくる歌を選びました。
ベラルーシ人によく間違えられるのですが、「日」が日本で、「月」がベラルーシということではありません。
二つの惑星が重なって同時に見える、つまり日本とベラルーシという二つの文化が歌を通して重なってほしかったのです。
ちなみに、CDのジャケットについて私は「大体こういうイメージにしてほしい。」とラフスケッチのようなものを渡していました。
言葉で説明すると、スカリナマークが空中(宇宙)に浮かんでいるような感じの絵です。
トーダル君は私の絵が大変気に入ったそうです。その絵をグリョーブスさんに見せたら、グリョーブスさんも褒めてくれたそうです。(現代を代表するベラルーシ詩人に褒められるなんて光栄です! しかもグリョーブスさんは元々美術が専門なのだそうです。)
ところがその後、私の絵は没になってしまいました。インパクトが薄く、店頭に並べたときに他のCDジャケットのデザインの中に埋もれてしまう、という理由でした。
代わりにダシケビッチさんが考えたのがこのジャケットです。ダシケビッチさんはスカリナ・マークから連想して、古文書風の色をまず背景に選びました。
そして紅葉を古文書の紙の上に散らしました。
最初ダシケビッチさんの仮のデザインを見たとき
「確かにこのデザインのほうがインパクトがあるわ。」と思いましたが、
「この羊皮紙もいいですけど、もっとスケールの広いようなデザインはだめですかね。宇宙とか空間とか、天とか空とか。日本とベラルーシは遠いけど、月面から見れば近い。タイトルが『月と日』なんだから二つの国が宇宙を通じて繋がっている・・・そういうイメージのほうがうれしいんですが。」
と自分の意見を言いました。
「それに収録曲は春夏秋冬の曲を集めたのに、紅葉だと秋の歌だけのようなイメージが強くなってしまいます。実際『紅葉』という曲が収録されているので、ジャケットに紅葉があると、1曲だけが特別扱いされているようだ。」
とも言いました。
このようにジャケットデザインについて、トーダル君も交えていろいろ話し合ったのですが、ダシケビッチさんの説得を聞いているとだんだん、紅葉の葉っぱが羊皮紙の上の「言の葉」に見えてきて、
「万葉集を思い出すなあ。・・・これでいいか。」
と思えてきました。それにCDの発売は秋なので、紅葉でもいいような気がしてきました。
結局、私は自分の意見を引っ込め、ダシケビッチさんのデザインが採用されることになりました。
CDがいざ9月に完成してみると、ちょうどベラルーシは紅葉真っ盛りとなっていました。
今ではこのデザインになってよかったな、と思っています。見るたびにCDが誕生した2005年の秋を思い出せるからです。