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■ 第1回−1
2004年3月6日
2004年3月6日、ベラルーシ国立フィルハーモニー付属、室内楽コンサートホールにて、現代音楽コンサートが行われましたが、その中の演目の一つとして、松尾芭蕉の生誕360周年を記念して作曲された作品「芭蕉の詩(うた)」の一部が発表されました。
作曲者はベラルーシ作曲家同盟とベラルーシ現代音楽協会の会員であるアンナ・コロトキナさん。
芭蕉の俳句の朗読はベラルーシ国立フィルハーモニー所属のメゾソプラノ歌手、オリガ・ソトニコワさん。
演奏はピアノが作曲者のアンナ・コロトキナさん、打楽器はベラルーシ国立音楽アカデミーの教師アレクサンドル・ノビコフさんでした。
会場となった室内楽コンサートホールは、もともとカトリックの教会でしたが、ソ連時代、宗教活動が禁止され、そこに残っていたパイプオルガンを生かして、室内楽コンサートホールとして利用していました。ソ連崩壊後は宗教活動を再開し、ポーランド語によるミサが行われていますが、コンサートも引き続き開催されています。
3月6日、ベラルーシ現代音楽の作曲家5人の作品を同時に上演することになり、「芭蕉の詩」はコロトキナさんの最新作として発表されました。
そもそもこの話がコロトキナさんと辰巳の間で出たのはちょうど1年前・・・。ベラルーシ作曲家同盟が入っている建物の中で、ベラルーシ音楽CDに関わっているプロデューサー氏に紹介されたのがきっかけでした。
コロトキナさんはベラルーシらしい曲作りを行うかたわら、さまざまなジャンルの音楽に挑戦し続けているそうで、出会ったとき
「日本をテーマの音楽を作りたい。」
という話が出たのです。
しかし、そのときコロトキナさんは先に約束していたアルメニアの詩人が書いた詩に、曲をつけるという仕事をしており、日本はその次に・・・ということで、そのときは約束だけに終わっていました。
昨年、アルメニアがテーマのコンサートが開催され、辰巳も招待されたのですが、偶然子どもの誕生日と重なってしまって、聞くことはできませんでした。
その後、約束通りコロトキナさんは日本をテーマにした、作品を作ることになりました。
形としてはアルメニアのときのように、日本の詩人(俳人や歌人)の作品に曲をつける方法で、
進めるのがいいのではないか、ということになり、日本文化情報センター所蔵の日本伝統音楽CDや楽器についての文献などをコロトキナさんに貸し出しました。
その結果、2003年末には
「詩人の中では芭蕉が最もすばらしいように感じました。」
というコロトキナさんの要望に沿って、(ちなみに日本の音楽の中では「雅楽が最高!」と言っていました。古い時代に作られた音楽ですが、ベラルーシの現代音楽作曲家の心に一番響いたようです。)
「じゃあ、芭蕉コンサートをしよう!」
と話がどんどん具体化していきました。
さらによく芭蕉の経歴を読んでいると、2004年は生誕360周年、そして没後310周年であることが分かり
「これはきっと偶然ではない!」
と盛り上がっていました。
しかし「芭蕉コンサート」と言っても、ベラルーシでどのような形式で表現すればいいのか、もっと話し合いを重ねなくてはいけませんでした。
結局、コロトキナさんが、日本伝統音楽の要素を加味した、独自の現代音楽曲を作曲し、それをバックに芭蕉の俳句のロシア語訳を、美しく朗読する・・・ということになりました。
朗読者は美声の持ち主、ソトニコワさんが担当することに決まり、その他にも細かい点を詰めていきました。
2月初めには作品が完成。中旬には辰巳家で着物の衣装合わせをしました。が、着物の着付けに最低30分はかかると知って、コロトキナさんとソトニコワさんはびっくり。
3月6日に行われるベラルーシ現代音楽コンサートに、出だしの部分だけ発表することになっていたのですが、ソトニコワさんは他の作曲家の作品にも歌手として舞台に出ないといけないので、曲の合間に5分で着物に着替えないといけないことが分かり、ちょっと困ってしまいました。
そこで日本人の目から見ると、正しくはないのですが、早く着られる着物、というのを苦心の末(?)作りました。
というわけで辰巳も裏方で参加した今回のコンサート・・・前日のリハーサルも大変でしたし、当日もちょっとした苦労がありましたが(着付けをしないといけなかったので、私は楽屋に詰めていたのですが、それにしても・・・舞台上は美しくても、舞台裏は戦場・・・あるいはドタバタ喜劇(^^;)ということが今回よく分かりました。)実際の発表は大成功!
コンサート自体は作曲者たちの自主的な発表会に近かったので、入場無料ということもあり、約120席の会場は満員の状態。
コロトキナさんと司会者の説明を聞いて初めて
「日本にはバショーという詩人がいたのだな。」
と知った人がほとんどだったと思いますが、着物を着て、笠を手にした美しいソトニコワさんが舞台に登場すると、会場に静かなどよめきが・・・
静まり返った会場に、コロトキナさんのピアノ、ノビコフさんの打楽器、ソトニコワさんの朗読が始まりました。
司会者の女性は音楽学が専門の方でしたが、
「今までベラルーシで、こんな作品が発表されたことはない。」
と断言。そして
「来場者の方たち、みんな目と口をぽかんと開けていたわよ。」
と言っていました。
曲の最後にソトニコワさんが鐘をゆっくり鳴らしました。鐘とは仏壇でチーンと鳴らすあの鐘のことです。
これはコロトキナさんに
「何か打楽器で日本の伝統楽器を使いたいが、何とかならないか。」
と頼まれたのですが、日本文化情報センターにも、和楽器はなくて、いろいろ考えたのですが、結局チロ基金の出資で楽器を買おうと決めました。
しかし、和楽器はとても高価なうえ、大きいものだと日本から持ってくるのも郵送するのも大変なので、楽器ではないけれど、最も手軽に買える鐘を仏具屋で買うことにし、打楽器として使うことにしました。
日本人の耳にとってはコンサート会場で聞く鐘の音はちょっと変かもしれませんが、ソトニコワさんが鐘をゆっくりと鳴らすと、ベラルーシの人々は初めて聞く音色に、真剣に聞き入っていました。
コロトキナさんもピアノを弾きながら、日本語でチャッパと言われる楽器(小型のシンバル)を打ち鳴らしたりと、大忙し。
そして、ノビコフさんも銅鑼に似た楽器を打ち鳴らして、熱のこもった演奏をしてくれました。
曲が終わると、文字通り万雷の拍手が起こりました。
(私が贔屓目に思っているせいか、他の作曲者の作品のときより、拍手やブラボーの声が大きかったような気が・・・(^^;)
このように「芭蕉の詩」は成功のうちに終わりました。
しかし、これは単なる「練習」。本番は3月20日の春分の日に行われます。
会場を代えて、部分ではなく、全体演奏され、より完璧な作品として発表されることになっています。
次回は私も担当が芭蕉の生涯をロシア語で紹介する役なので、ちょっとだけ表舞台に出ます。
コンサート終了後、いわゆる打ち上げの場で他の作曲家の方々から
「作品自体は良かったが、バランスが悪かった。バランスとは何かと言うと、打楽器が大きく鳴らされたときに、朗読の声が聞き取りにくかった、ということです。」
「この会場は教会だから、聖歌隊の合唱の声がよく響くように設計されている。
内容の明瞭さが必要とされる詩の朗読には向いていない。」
「日本の俳句なのだから、日本語で朗読してほしかった。」
ソトニコワさんが「私はそんなの無理よ!」と言うとみんなの視線が私のほうへ・・・(^^;)(や、やばい・・・)
部分的ではあり、また課題も残しましたが、ベラルーシ初の「日本の俳句がテーマの文学的音楽作品」が発表され、ベラルーシの人々に聞いていただけて、本当にうれしかったです。
次回の発表に向けて現在準備中です。20日のコンサートについてはまた改めてご報告しますね。
次回のコンサートも諸事情につき、入場無料なのですが、会場費や、プログラムの印刷代など細々とした経費がかかります。日本円にして全部で1万円1500円の経費をチロ基金が負担することになりました。この予算は昨年末に行われたバザーの売上の一部を捻出させていたきました。売上にご協力くださった皆様、バザー関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
このような事情から、今回の一連のコンサート活動は、チロ基金の活動として、ご報告しています。
最後になりますが、鐘を日本で買って直接持ってきてくださった方、急に無理なことを頼んで本当にすみませんでした。でも、発表時、鐘を使えるようになってよかったです。
コンサート終了後は、日本文化情報センター内で、(楽器ではなく(^^;))仏具として、展示する予定です。本当にありがとうございました。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。→NEXT
辰巳雅子
Date:2004/03/18
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