ひな祭りの紹介 第17番ギムナジア (後日談も)
3月3日恒例のひな祭り講演会を、ミンスク市内にある音楽学校「第17番ギムナジア」で行いました。
この学校で「芭蕉の詩」作曲家であるアンナ・コロトキナさんが教鞭を取っておられます。(芭蕉の詩についてはこちらです。)
「ギムナジアって何?」
と思われた方もいるでしょうが、簡単に説明すると、公立学校だが、入学時に試験があり、専門教育(芸術関係に限らず、大学進学そのものを謳うところが最も多い。)が行われている学校です。
この学校は以前ミンスク市立第102番学校として創られ、その後音楽教育に力を入れるようになり、第17番ギムナジアに改変されました。
日本で言うところの小学校1年生から高校3年生までの年齢の生徒、約800名が在学しており、17種類の楽器のほか、声楽や舞踊も習っています。教師陣にはコロトキナさんのような現役作曲家の他、プロのオペラ歌手やソリストがそろっており、日本では考えられないようなレベルの高さです。しかも授業料は公立だから無料。恵まれていますよね〜
さて、今回はこのように音楽学校での公演ということで、ひな祭りのことだけではなく、日本の伝統音楽や楽器についてもお話しました。
会場に集まったのは300名の低学年を中心とした生徒さんたちや、教職員の方々でした。
雅楽の紹介のほか、琵琶、鼓、琴、尺八、三味線といった楽器についてビデオ上映を交えながら、音色も楽しんでもらいました。
説明をメモする先生方が多かったです。また日本人の演奏家が着物を着て演奏しているビデオを見て、生徒さん達は大喜びでした。一番人気があったのは琴と尺八による「春の海」でした。
(吉田兄弟も子ども達には受けていました。)
音楽が専門とあって、みなさん各楽器の音色を真剣に聞き取ろうとしていました。
私の講演の後に続いてコロトキナ先生による公演も行われました。CD「芭蕉の詩」に収録されたビデオクリップが上映されたのですが、低学年の生徒さんも熱心に俳句の朗読に耳を澄ませていて感心しました。
公演の後、校長先生に学校内を案内されました。校内のあちこちから楽器の音色や合唱が聞こえてきて、活気のある学校でした。
そして図書室に案内されてびっくり。中央にピアノが置かれ、本棚には楽譜がずらり。コンピュータもありました。ただ、日本を初めとするアジアの音楽に関する資料や楽譜は全くと言っていいほど、ないということでした。そのため先生方は公演内容のメモを取っていたということでした。
それでこの学校にCD「月と日」とそれに収録された日本の歌10曲の楽譜のコピーを寄贈しました。
するとこの学校で「音楽文学」という授業を受け持っているアレクサンドル先生が、興味を示して、すぐに楽譜を眺め、歌い始めました。
コロトキナさんも加わって「十五夜お月さん」や「冬の夜」を男女混声合唱曲にして歌ってくれました。すごく感動しました。
トーダル君も言っていましたが、やっぱり「十五夜お月さん」はベラルーシ民謡に似ていると、先生たちも話していました。
「この小節のあたりがベラルーシ民謡によくあるフレーズですね。」
「でも、このあたりのメロディーは東洋音楽の特徴が出ていますね。」
と二人が楽譜のあちこちを指差しながら話しているのですが、私には専門性が高すぎて、よく分かりませんでした。
「こうすると完全にベラルーシ民謡になります。」
と二人が即興で「十五夜お月さん」をアレンジして歌ってくれたのですが、確かにベラルーシ民謡に聞こえる! すごい! と思いました。日本人の皆様にお聞かせできなくて残念です。
さらにアレクサンドル先生はこんな話をしてくれました。
普段アレクサンドル先生は「音楽文学」の授業で作曲家の生涯やオペラ作品の成り立ち、世界の音楽史などを教えているそうです。
実技は教えていないそうですが、ご自身は友人と4人の男声合唱団「バガントィ」を結成し、アマチュアですが、コーラスを楽しんでいるそうです。
そしてこんなことを言い出しました。
「来週、この学校で音楽会が開かれますが、それに『バガントィ』もゲスト出演することになっています。何曲か歌いますが、それに日本の歌を1曲加えましょう。」
「月と日」収録曲の中から1曲選んで、男性コーラス用にアレンジしてベラルーシ語で歌う、と言うのです。
「本番までにちょうど1週間ありますが、それまでに仕上げてみせますよ。」
と、さわやかな笑顔を見せるアレクサンドル先生。
さあ、どうなるのか? 続きをお楽しみに。
画像は記念撮影した様子です。寄贈した楽譜を手にするのは校長先生。その左横はコロトキナさん。背が高い人がアレクサンドル先生。私も子ども達の中に埋もれていますが(^^;)写っています。
2006/03/21(Tue) 辰巳雅子
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長くなりますがその後の話です!
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第17番ギムナジアで3月3日に行われたひな祭り公演から、ちょうど1週間後の3月10日。
再びこの学校へ招かれました。
今回は音楽会のお客さんとして行ったのですが、まずは参加した生徒さんたちのことを書きましょう。
ピアノやフルート、ドンブラといった楽器を軽々と弾きこなすこの学校の生徒さんたちにびっくりしました。またこの学校で教鞭も取る作曲家の最新作品を子ども達が、さらさらと弾いていました。子ども用であんまり難しくないを作曲したのかというと、そうでもなく、1曲がすごく長かったり、現代音楽という子どもには弾きにくそうなジャンルだったりと、レベルが非常に高かったです。
さらに普段は歌を教えている先生が、現役オペラ歌手なのですが、バリトンとソプラノ歌手(先生)も登場。ふだん授業を受け持っている先生がイタリア語でオペラを歌っているのを聴ける生徒たちって、本当に恵まれています。
ソプラノの先生などは、真っ青のロングドレス姿で登場。もちろんヘアースタイルはアップ。胸元にはネックレスが輝いていました。子ども相手だからと手抜きすることは全くなく、完全に大劇場の舞台に立っている気持ちで歌っていました。
普通だったらお金を払わないと聴けないものが至近距離で聴けて、ああ、私って何て運がいいんだろうと思いましたよ。
さて1週間前、「月と日」収録曲の中から1曲選んで、男性コーラス用にアレンジしてベラルーシ語で歌う、と約束したアレクサンドル先生率いる合唱団「バガントィ」がいよいよ登場しました。
さあ、本当に日本の歌を歌ってくれるのでしょうか?
普通、合唱というと「紅葉」なんかが適当かと、日本人は思いますが、バガントィは何と、10曲の中から「茶摘み」を選曲しました。
そして歌は、CD「月と日」と同様に
「イエイ、イエイ、イエイ、イエイ、イエ〜♪」
で始まったので、びっくり仰天しました。
日本人の皆様にこの合唱ヴァージョン「茶摘み」をお聞かせできず、実に残念です。
バガントィは普段はグレゴリウス聖歌など賛美歌を歌うことが多いそうですが、「茶摘み」も完全に賛美歌風にアレンジされていました。しかし出だしの歌詞が「イエイ、イエイ、イエイ、イエイ、イエ〜♪」のままだったので、私は驚いてしまったのですが、会場の皆さんは真剣に聴いていました。
さすがにラップの歌詞はカットされていましたが、バガントィが歌った「茶摘み」は文字通り聖歌に変身していました。
分かりやすく言えば、ダークダックスが「茶摘み」を歌っているような感じでしょうか。
最後にはサビの部分を輪唱していました。とにかく日本人が思いつかないような歌になっており、教会のミサで歌っても全く違和感がないような「茶摘み」になっていました。
後で、どうして茶摘みを選んだんですか、という私の問いに
「合唱曲への移行が一番スムーズにできたから。」
と答えるアレクサンドル先生。
もともと「茶摘み」は労働歌だったわけですが、トーダル君はそれをレゲエ&ラップに編曲し、さらにそこからバガントィは賛美歌風に編曲しました。
日本人の想像の域を超えた変貌振りです。
と同時にベラルーシ人音楽家たちの多才ぶりに感動しました。
そもそも「月と日」はベラルーシ人に歌を通して日本を紹介する目的で創ったものです。ですから今回、CDを聴いてバガントィが歌ってくれたということは、また「月と日」の目的が一歩達成されたということです。
聴いていた生徒さんたちは
「お茶というのが、日本っていう感じがして、おもしろかった。」
と感想を述べていました。
「月と日」のさらなる成長を促してくれたバガントィの皆さん、本当にありがとうございます!
「イエイ、イエイ、イエイ、イエイ、イエ〜♪」で始まったときはびっくりした私でしたが、最後の輪唱部分では感動で涙が出ました。
画像はバガントィのステージの様子です。普段は皆さん、学校の先生やプログラマー、画家といったお仕事をされているそうです。本当にありがとう!
(CD「月と日」について詳しくはこちらをご覧ください。)