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第24夜間学校でのテーマ発表会 

3月23日にミンスク市立第24夜間学校で日本についてのテーマ発表会が行われました。普通は私が一人で公演をすることが多いのですが、今回はちょっと違いました。 
  しかし、そのご報告をする前に、今回初めてベラルーシの夜間学校に行き、教職員の方々からお話を伺うことができましたので、まずベラルーシの夜間学校についてご紹介したいと思います。

ベラルーシの夜間学校について

 ミンスク市内に夜間学校は8校あり、第24番学校はセンターがある第5児童図書館のすぐ近くにあります。ベラルーシは少子化が進み、2年前に一つの幼稚園が閉鎖され、第24番学校が現在その建物に移転して使用しています。
  全校生徒は約400人。通学部と通信教育部のクラスがあり、また前者は始業時間に合わせて第一部と第二部に分かれています。テーマ発表会を行ったのは第二部の生徒さんたちでした。
 年齢は16歳からで、年齢制限はありませんが、ほとんどの生徒さんが16歳から25歳ぐらいまでの年齢に該当しています。

  ほぼ全員が就業しながら通学していますが、ベラルーシの公立高校は授業料が無料で、入学試験も事実上ないのに、夜間学校があるのはなぜなのでしょう。
  日本だと、経済的に事情がある、普通の高校に通学したくない、あるいはできない、若いとき教育を受けられなかったので、年齢的にはすでに若くはないが高卒の資格を取りたい、と言う人が夜間学校に通っている場合が多いと思います。
  ベラルーシの場合、残念ですが、窃盗や傷害などの犯罪を犯し、少年院に入っていたので、出所した後、教育を再び受けるため、夜間学校に通うことになったという生徒がほとんどです。特に男子生徒のほとんどはそうなのだそうです。
  しかし彼らは現在は更正して、昼間はまじめに働き、夜は勉強しているそうです。

  そして現在の夜間学校は女子生徒の割合が過半数と多いのですが、その理由を聞いて驚きました。女子生徒のほとんどが子どもを持っているのだそうです。つまり中学生や高校生で妊娠し、出産するとベラルーシではそれまで通っていた普通の学校から、夜間学校へ強制的に転校させられるのです。
  ベラルーシでは男女とも18歳になると親の同意なく結婚できます。例外的に女の子で14歳以上、しかも子どもがおり、夫となる人が18歳以上の場合は結婚できる場合もあるそうです。
  既婚か未婚かは別として、18歳以下の未成年が、出産すると以前通学していた学校には通学できなくなり、自宅から最も近いところにある夜間学校に籍を移されます。
  そして子育てしながら、あるいは育児も仕事もしながら、夜間学校に通うことになります。
  と言うことは・・・
「私は夜間学校を卒業しました。」
と言うとそれだけで、前科がある、あるいは10代でママになった人なのか、と思われてしまう、ということですよね。それってかえって差別に繋がらないのだろうか? と私が先生に尋ねると、逆に日本の場合はどうなっているのかきかれました。

  日本では普通、中学生が出産してもその子どもが公立の中学校に通っていた場合は、除籍されたり転校させられたりすることは絶対にない。高校も基本的に同じ。(本人が中退したい、と希望した場合はもちろん別。高校側に妊娠したら退学を勧めます、という校則がある場合は自主退学を「促される」可能性もあるけれど・・・。) 
  普通は休学して、来年から年齢では1歳下の学年の生徒と再び学び始める。もし、本人が希望して高校を中退したとして、また復学を希望する場合は高校の入試を再受験して合格すれば1年生からやり直しができる。他の高校でも受験できる。しかし絶対に夜間学校に入らないといけない、という法律はない。

  ・・・と日本の事情を話すと、ベラルーシ人の先生はこのような意見を述べました。
「ベラルーシでは普通の中高校に『お母さん』は絶対通学できないのです。強制的に夜間学校に集められます。しかし、それでいいと思います。というのも、日本の方法だと、子持ちの高校生がそうではない普通の高校生を机を並べることになります。出産を経験するとそういう女の子は精神的に大人っぽくなります。しかし、周りの子どもはそれが分からず、冷やかしたりする。今まであまり顔を合わしたことのない1歳年下の生徒に囲まれて、浮いてしまい、いじめられたりする。
  また子どもを持っている若いお母さんに刺激され、今までそんなことを考えたことのなかった他の女子生徒が、『私も若くしていろいろ経験してみたい。』と思うようになるかもしれない。」
(つまり、未成年のママが他のティーンエイジャーに影響を与え、未成年ママの数がさらに増えてしまう、ということですね。未成年ママが増えるのはまだいいんですが、それより中絶の数が増えるのを防止するのが狙い、ということも言えるでしょう。日本でもそうですが、十代の妊娠は中絶で終わることが多いので。
  夜間学校は16歳以上となっていますが、それ以下の年齢の子どもが出産した場合は小学校や中学校はどうなるんですか? と質問したら「そういうケースは非常に少ない。普通は出産まで至らない。中絶するか流産してしまう。もし生まれたとしても、親権放棄して子どもは孤児院に送られてしまうことが多い。」のだそうです。) 
「しかし、夜間学校に通えば周りは自分と同じ境遇の女の子たちばかりです。育児の情報交換をしたり、家庭や職場の愚痴を言い合って慰めあったり、勉強を助け合ったり。似た者同志なので、お互いの悩みを共感でき、周囲から浮き上がることなく、友達がたくさんできます。精神的に落ち着き、成績の向上にも繋がります。」

  この先生の説明にも私は納得してしまいました。ベラルーシと日本とどちらが本人にとっていいのか、差別にならないのか、意見はさまざまだと思います。どちらにせよ、一長一短ありますよね。
  ちなみに第24番学校の卒業生たちの成績は、ミンスク市内の夜間学校の中で最上位で、大学進学率は20%だそうです。学校ではちゃんと進路指導をしてくれます。ただ、大学入学時にすでに就職している場合がほとんどなので、入学する大学も夜間部である場合が多いそうです。
  それから日本の夜間学校と違って、ベラルーシの夜間学校は体育の授業がなく、クラブ活動もないそうです。
  だから、もともと幼稚園だった建物を夜間学校にしてしまうことができるんですね。
  ベラルーシ人の先生は
「体育の授業はあるほうがいい。せめて教室の一つを改装して、ジム施設のようにしたらどうか、と提案しています。」
と話していました。

  このような話を聞き、夜間学校へやってきたわけですが、女子生徒はどこからどう見てもみんなごく普通の女子高校生にしか見えず、
「本当にこの人たち、ママなの?」
と思いました。
  男子生徒もみんなそのへんにいそうな、普通の高校生と同じに見え、とても前科のある人たちには見えませんでした。
 
  その前に1月にセンターで開催された着物展に、校外学習で20名ほどの生徒さんが来てくれたのですが、みんなすごくまじめで、行儀がよくて、質問は活発にするし、絵に書いたような優等生ばかりに見えました。その後、発表会に招待されたわけです。

発表のレポート

夜間学校で地理の教鞭を取っているセルゲイ・ゲオルギエビッチ先生

写真に写っているのは夜間学校で地理の教鞭を取っているセルゲイ・ゲオルギエビッチ先生。

 発表会は地理の授業の一環として行われました。会場となった教室にはその他の先生方も参加し、発表会の様子はビデオに録画されました。教室の壁には日本文化情報センターから貸し出したポスターや日本地図が貼られ、生徒さんたちの手作りの日の丸もベラルーシの国旗と並べて飾られました。(しかし、ベラルーシの国章の隣に天皇家の家紋が飾られているのは、日本人は笑ってしまいますよね。(^^;) でもこれも、生徒さんたちが一生懸命作ってくれたんです。)

発表する生徒発表する生徒

 発表会までに各生徒にテーマが与えられて、それぞれが調べてレポートにまとめてきました。
 
 各テーマはこのとおりです。
「天皇制」「経済・技術」「教育制度」「地理」「武道」「着物」「芸者」「男女平等問題」「日本人の美的感覚」 
 これらのテーマを自分たちで調べて、順番に発表しました。中には手作りの表やスクラップ状に写真を集めた手作りのポスターを掲示して説明する人もいました。発表の内容に間違いや補足するところがあれば、私が説明を補いました。
 また発表ごとにセルゲイ・ゲオルギエビッチ先生が生徒に鋭い質問を投げかけたりして、非常に中身の濃い発表会でした。最後には日本文化センター所有の「日本の世界遺産」のビデオをみんなで見ました。
 
 ちなみにもう少し発表の中身について詳しく書くと・・・
「天皇制」→「現在における天皇制度、ならびに日本社会での最大の問題は跡継ぎがいないことです。」→(私から秋に皇族の数が一人増えるので、跡継ぎ問題はなくなるかも。と補足説明。)
「経済・技術」→「天然資源に恵まれない日本が戦後、経済大国になった理由の一つは、勤勉な国民性にあります。」セルゲイ先生は「日本人に見習ってみなさんもまじめに働きましょう。」(私はあまり勤勉な日本人ではないので、恥ずかしくなりました。)
「教育制度」を発表した生徒さんは、非の打ちどころのない説明をしました。受験戦争や塾、いじめの問題まで発表しました。(聞いていた生徒さんたちは、ちょっと引いていました。)(^^;)
「地理」→「現在ロシアと領土問題がある島は九州です。」と発表し、セルゲイ先生にすぐ否定されていました。(^^;)
「武道」→主に相撲について発表。柔道や空手についても説明していましたが、なぜか合気道のことは知らない、と言っていました。
「着物」→1月に日本文化情報センターで行われた着物展に行って、見聞きしたことをそのとき撮影した写真を交えて発表。
「芸者」→「芸者について誤解しているベラルーシ人が多い。生徒はみんな16歳以上だし、誤解を解くためにもぜひこのテーマを。」と言うセルゲイ先生の希望により選ばれたテーマ。芸者と聞いて、ちょっと笑ったりした生徒さんもいましたが、担当の女子生徒が「芸者とは『芸術の人』と翻訳でき、厳しい修行を積まなくては一人前になれません。」と発表したら、みんな感嘆していました。
「男女平等問題」→「日本人の男性が帰宅するとその上着を脱ぐのを妻が手伝います。」(最近はそういうことをする夫婦も減っているでしょうが・・・)これを聞いたベラルーシ人はみんな驚いていました。ベラルーシでは逆なので。
「日本人の美的感覚」→石庭など、ヨーロッパ人が考え付かない発想をする感覚について。 

 よく公演会に招かれて、学校に行きますが、生徒側から「日本について事前に調べておきました。」という発表会には出席したことは今までなかったので、とても感動しました。
 1時間20分にわたる発表会でしたが、騒いだりする生徒は一人もおらず、みんな興味津々で、他の先生方も
「本当にすばらしい発表会でした。今日一日で日本について多くのことを知ることができました。」
と高く評価していました。
 私にとっても大変勉強になる発表会でした。提案してくれたセルゲイ先生、本当にありがとうございました。準備が大変だったと思いますが、生徒さんたちの日本への理解がとても深くなったと思います。これこそ国際理解への道の一歩。また機会がありましたら、この第24番夜間学校での授業に協力したいと思っています。
2006/04/4-5 辰巳雅子