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Tのベラルーシ音楽コラム

スタールィ・オルサ「晩餐の盃」

 やっとこのコラムでスタールィ・オルサのことを紹介することができました。
 私が数あるベラルーシ音楽アーティストの中でも、最も注目しているのが、このグループです。
 2000年に私が初めてスタールィ・オルサのCDと出会ったときの驚きは忘れられません。
 プロデューサー氏から
「このグループねえ、去年デビューしたんだけど、うちで今イチ押しのアーティストなんだよ。」
とCDを見せてもらったとき、まずそのあまりも怪しいジャケットデザイン(画像参照)に、内心
「う・・・; 何これえ〜??? 」
と、黒目のない女の人(?)が盃を持っている変な絵に、思わず引いていました。
 
 そして聞いてもびっくり。いきなりおならのような「ブ〜〜〜!!!」という音からいきなり始まるのです・・・「一体これは何?!」
 今思えばこの音こそが、私とスタールィ・オルサとの運命の幕開けを告げる音だったのです・・・

 スタールィ・オルサのファーストアルバム「晩餐の盃」(全16曲 44分9秒収録)は、ベラルーシでも珍しい「ベラルーシ中世音楽」がテーマのCDです。
 最初は何これ? と思いながら聞いたCDなのですが、聞き終わったとき
「私が今まで『これぞベラルーシの音楽』と思って聞いていたベラルーシ民謡って何だったんだろう・・・。ベラルーシの伝統音楽は民謡だけじゃなかったんだ・・・。」
とベラルーシ音楽世界が大きく開けたような気がしました。さらにそれは私の中のベラルーシ文化そのものへの視点も変えてしまったのです。

 それまで私はベラルーシの伝統文化、といえば、無理矢理言葉で表すと
「赤い糸で刺繍した、亜麻の民族衣装を着て、じゃがいもを毎日食べていて、畑仕事をしながら民謡を歌っているベラルーシの純朴な人々・・・」
というイメージがあったのです。
 しかし、それはベラルーシの文化の一側面しか表していなかったのです。
 
 ベラルーシのことを調べていくうちに、ベラルーシの文化には上記のような「農民文化」のほかに「貴族文化」というものがあることに気がついたのです。
 日本で紹介されているベラルーシの文化というのはほとんど前者だけです。
 なぜならば、貴族文化のほうはロシア革命にともない、それを担っていたベラルーシ貴族達の多くが、外国へ亡命してしまい、衰退、そしてほぼ消滅してしまったから
です。
 そのため、今のベラルーシには農村文化しか残らず、それがベラルーシの文化として日本を始め、世界に紹介されています。
 しかし、ベラルーシには
「刺繍の入った亜麻の服なんて着ず、畑仕事なんかせず、民謡ではなく、舞踊会用のダンス曲に合わせて、ドレスの裾を引きずりながら上品に踊る」
・・・といった人々、そしてその人たちが何世紀もかけて作り上げた伝統文化があったのです。
 このもう一つの失われたベラルーシの貴族文化のほうが、日本にはほとんど紹介されていないのが残念です。これではベラルーシの文化を語る上で片手落ちになってしまいます。
 ベラルーシの部屋では、このようなベラルーシ貴族文化について紹介していこうと思っています。
 
 話がスタールィ・オルサに戻るのですが、このグループはそのような、ベラルーシ貴族文化が花開いた、中世のころのベラルーシ音楽を、現代に蘇らせたのです。
 全16曲のうち前半の9曲は、中世初期のベラルーシ音楽を再現した貴重な曲です。
 使われている楽器も、羊皮バグパイプ、手回しリラ、グースリ(スラブ琴)、ジャレイカ(柳笛)、ズヴィレリ(木笛)、白樺皮ホルン、口琴など古いタイプの楽器を使って演奏しています。
 後半収録の7曲は中世後期の音楽に、現代の楽器(ギターとフルート)を加えて、演奏したものです。
 CDには使用された楽器が全て写真で紹介されています。が、どれがどれだかよく分からないです。(^^;)

 現在スタールィ・オルサは公式HPを開設しており、http://staryolsa.com/
「CDがないけど、ベラルーシの古い楽器が見てみたいよ〜」
という方のためにリンク先をご紹介します。でもやっぱりどれがどれだかよく分からないですねえ。(^^;) バグパイプはぺったんこだし。(^^;)
 ちなみに右側の茶色の楽器が手回しリラ、左の奥にあるのがグースリ(スラブ琴)です。その前にあるのはリュートです。(たぶん)
http://staryolsa.com/rus/fota_2002-06-loshitsa2.shtml

 あと、こちらから2003年のコンサートの様子が見られるはずです。
http://staryolsa.com/eng/videa.shtml

 CDにはベラルーシ語と英語の簡単な解説書(ただしミスプリ有(^^;))がつ
いています。が、ここでも全曲ではありませんが曲の解説を簡単にします。

1 「呪文」 
 (いきなりおならのような宣戦布告のような音で始まります。火が燃える効果音が入り、本当に誰かが呪文を唱える声が聞こえてきます。あ、怪しい・・・。もちろん曲もちゃんと始まります。
 店頭で「スタールィ・オルサ? 視聴させてください。」と頼んで、聞いた曲がこの曲だと、「い、いりません!」という反応しか返ってこなさそうな、変な曲です。でも、怪しいのは(たぶん(^^;)この曲だけです。) 

3 「船」
6 「海の上」(ベラルーシ民謡)
 (このように海や海に関係する曲は、ベラルーシがリトワニア大公国の領地内にあった中世の頃に成立した曲だと考えられます。当然のことながら、ここでの海はバルト海を指します。)

7 「ダンス」
 (これを聴くだけでも、ベラルーシの民族舞踊のときに演奏される音楽とは全然違うことが分かります。文章では上手に説明できませんが、いわゆる民謡アンサンブルが踊るダンスと、中世貴族の踊りは全然違います。) 

9 「薔薇」(ベラルーシ民謡)
 (単純な繰り返しのメロディー。男性ボーカルの乾いた声・・・。それなのにどうしてこの歌はこんなに胸を打つんでしょうか? 
 「薔薇の花を手折り、僕は水の中に放した・・・」で始まる素朴なベラルーシ民謡。
 歌詞が描く世界と男性の声が合っていないような気もするのですが、(^^;) 
「ベラルーシの民謡を一つマスターするとしたら、この曲だな。」と決めている(でも全然実行に移していない(^^;)曲です。)

10 「勇者ヴァイトウナ」(ベラルーシ民謡)
 (原題では「ヴァイトウナ」で、これが何なのか、辞書には載っていなし、誰に聞いても分からないし、訳するのに苦しみました。歌詞を聴いて
「戦いが始まった。しかし我らにはヴァイトウナがいる。ヴァイトウナが剣を一振りするだけで、敵がなぎ倒される・・・」
・・・という一騎当千の強者のことを歌った英雄伝の冒頭部分だけを歌った曲だということが分かりました。
 歌詞を全部詳しく訳せないので日本語訳は「勇者ヴァイトウナ」にしました。
 しかし、ベラルーシ人にきいてもヴァイトウナのことを知っている人がいない・・・(^^;)
 実在の人じゃなくて、お話に出てくる主人公なのでしょうか??? 何か分かれば、また追加のコラムを書きます。

12 「行軍」
 (中世の騎士の姿を彷彿とさせる曲。こういった雰囲気の音楽が、一般的なベラルーシ民謡にはありません。)

13 「晩餐の盃」(ベラルーシ民謡)
 (アルバムタイトルにもなった曲。そして表ジャケットにも描かれている盃もこの曲をイメージしているのでしょう。タイトルや絵は暗い感じですが、実際の曲は、居酒屋で肩を組みながら、みんなで歌っているような宴会の歌です。)

14 「伝説」
 (15「門」や16「丘の向こうに」もそうなのですが、意外や意外、癒し系の曲です。この曲を聴いていると本当に癒されるだけではなく、力をもらえるような気がします。本当。)

 スタールィ・オルサの音楽の特徴は「古いベラルーシの歌」であることのほか・・・
 歌詞のある歌が少ないです。16曲中4曲にしか歌詞がありません。(古い歌で、歌詞の部分が現代に伝わらなかった?)
 効果音を使って中世の雰囲気を出そうと苦心しています。
 バグパイプと口琴、笛の効果的な演奏。特にバグパイプと口琴は曲に強いインパクトを与えています。また笛の音色のすばらしさには引き込まれます。

 さて、このグループのリーダー、ズィミツェル・サスノウスキーさんは、このCDでは一人で10種類の楽器を演奏しています。またまたベラルーシによくいる「マルチ演奏者」ですね。(サスノウスキーさんのお顔はこちら)
http://staryolsa.com/rus/fota_2002-06-loshitsa4.shtml

 現在のスタールィ・オルサのメンバーは5人で一定しているようですが、(5人の画像はこちら)
http://staryolsa.com/rus/fota_2002-06-loshitsa.shtml
 デビュー当時はサスノウスキーさんのほか、サリツェビッチという人が、ドラムとタンバリンを、そしてカルトゥノフという人がヴォーカルを担当しているという、たった3人の(というよりサスノウスキーさんがほとんど一人でやってる)グループでした。
 
 その後、後者の二人は脱退しますが(というかサスノウスキーさんが「こういう音楽やりたいんだけどなあ〜。ちょっと1回手伝ってよ。」と二人に頼んだだけなのかもしれませんが。)スタールィ・オルサの活動はどんどん続きます・・・。
 
 スタールィ・オルサについては、語り尽くせないので、続きはセカンドアルバムの紹介コラムに書きます。
by ベラルーシのT
Date:2003/12/06(Sat) 10:19
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