『チェルノブイリ:放射能と栄養』 無料頒布運動

概要

 1994年にウクライナの放射線医学研究センターの学者ら3名が赤十字社からの援助を受けて『チェルノブイリ:放射能と栄養』という小冊子を発行しました。  

 この小冊子はウクライナ領内の放射能汚染地域に住み続けている住民に対して無料で配布されました。その内容は、

・そもそも放射能とは何なのか? 
・健康に与える影響
・食物の摂取などによる間接的な被曝が大きな問題となった現代、食品の調理方法によって、いかに摂取する放射能量を減らすことができるか

以上について、科学的根拠をもとに分かりやすく説明したものです。  

 例えば、放射能含有度が高いことで有名なキノコについて、採りたてのキノコが含むセシウムの量を100とすると、キノコの量に対して5倍から10倍の水を3回換えながら洗った後、さらに水を取り替えながら30分間煮れば、88〜93ものセシウムを取り除くことができると説明してあります。  

 キノコの他にも、肉や牛乳に含まれた放射能を、調理方法によって口の中に入れる前にいかに減らすか、大変詳しく、そして分かりやすく説明してあります。  

 また本文中に、以下のようなことが書いてありました。  

 汚染地域に住む人々が地元で採れる野菜や牛乳には放射能がたくさん含まれるのではないかと不安に思って敬遠し、遠方から搬入された缶詰など加工された食品を食べて、放射能は入っていないと安心し、かえってチェルノブイリ原発事故以前より、栄養のバランスの悪い食生活をしてしまうようになっている、これは本当は健康的な食生活を送っているとは言えず、地元でとれた新鮮な野菜を食べるほうが体には良い、 ただ、その中に含まれている放射能はできるだけ摂取しないほうがよいので、この本で紹介されている調理方法を参考にして放射能を除去してほしい・・・

この部分を読んだとき、私(辰巳)は目から鱗が落ちる思いでした。 

 ベラルーシの国土のうち20%が放射能汚染地域です。そこから移住していった人々もいますが、住み続けている人の数はいまだに100万人もいます。彼らに「危険だからすぐに移住せよ。」 と言っても、みんながみんなできるわけではありません。  

 よその土地へ行っても再就職できるか分からない、生まれ育ったふるさとから離れたくない・・・といった理由から、汚染地域と知りながら住み続け、その土地で作られた作物を食べている人々が大勢います。  

 本当はすぐにでも引っ越すほうがいいのですが、現実問題として それが不可能なら、発想を転換して、放射能からただ逃げるのではなく、放射能汚染地で生きる生き方について考えたほうがいいのでは・・・とこの本と出会ってから思うようになりました。   

 この本と出会うことができたのは、京大原子炉実験所の今中哲二先生のおかげでした。キノコは調理法によって含んでいた放射能量を減らすことができるらしい、と教えていただき、 具体的にはどうすればよいのか、軽い気持ちで質問のメールを送ったのです。

 するとしばらくしてこの『チェルノブイリ:放射能と栄養』の日本語版が丸ごと1冊コピーされて郵送されてきました。  

 恐縮しながら一読して、その調理方法の詳しさ、科学的根拠に基づいた資料、そもそも赤十字が出資してウクライナの放射能汚染地域に住んでいる人々のために無料で配布されることを目的に出版されたことなどを知り、大変感動しました。  

 これはもっと多くの人、特にベラルーシの放射能汚染地域に住む人々に読んでもらうべきだと思い、今中先生から日本語版の訳者である、放射線医学総合研究所の白石久二雄氏を紹介していただいて、ロシア語版である原著のコピー、そして日本語版を一部寄贈していただきました。  

注意!
『チェルノブイリ:放射能と栄養』日本語版は2011年4月現在絶版で入手できません。
放射線医学総合研究所にも在庫はありません。
翻訳者の白石氏は2011年現在退職されています。

 この本が前述のような目的で1994年に出版されたことから、現在新たに購入することは不可能であると考え、コピーをその代わりにすることにしました。  

 しかし約65ページある本を丸ごと一冊コピーするのは、労力も予算もかかりますので、現地住民の日々の生活にとって最も必要とと思われる「食品中の放射性核種濃度を減らす合理的加工法」の章、「放射能汚染状況下での栄養摂取法」の章など、約20ページ分のみをコピーすることにしました。  

 かかる費用(用紙代、コピー代、郵送料など)はチロ基金が出資し、受け取る側の汚染地域住民には金額的な負担はいっさいかけないことにします。   

 とりあえず第1段階として1000部コピーし、ベラルーシの放射能汚染地域である ゴメリ州に住む人々に、無料で頒布することにしました。  

 現在、放射能汚染地域に住む知り合いや、救援活動をしている団体に見本として 1〜3部ずつ渡しています。またベラルーシのマスコミにも働きかけています。  

 その反応などを見ないとまだはっきり言えないのですが、1回頒布して終わり、ではなく、数年かけてもかまわない長期的な運動として取り組みたいと思っています。  

 この『チェルノブイリ:放射能と栄養』無料頒布運動につきましては、このHP上、 そしてチロ基金だよりなどでご報告します。  2003年以降は主にSOS子ども村において定期的に無料頒布運動を行っています。詳しくは→こちらから

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ところで、『チェルノブイリ:放射能と栄養』日本語版については日本で購入が可能ですので、興味のある方は下記までお問い合わせください。
■「チェルノブイリ:放射能と栄養」日本語版に関する問い合わせ先  
放射線医学総合研究所 放射線安全研究センタ−  

(2011年4月追記)放射線医学総合研究所から2011年4月に「すでに絶版している。在庫もない。」という連絡いただきました。
今まで住所や電話番号も載せていましたが、組織変更のため、電話も使えないそうです。住所や電話番号は削除しました。
また、翻訳者の白石氏は既に退職されました。
放射線医学総合研究所は2011年4月11日より相談専用電話が開設されています。お問い合わせは右リンクよりお願いします。(連絡先

(2011年5月追記) 復刊ドットコムで「チェルノブイリ:放射能と栄養」の復刊運動が行われています。
よろしければ投票お願い致します。 →復刊ドットコムの投票ページへ

復刊ドットコムの説明はこちらをご覧下さい。

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また訳者の白石氏から寄贈していただいた日本語版1冊は、在ベラルーシ日本人の方のために私の勤務する日本文化情報センターにて閲覧、貸し出しいたします。

 在ベラルーシ日本人の方々のほとんどがミンスク在住で、高放射能汚染地域には住んでいませんが、日常生活上、放射能が気になると言う方もいるかと思います。この本が不安解消に役立てば、と思っています。

(2002年6月 文責 辰巳雅子)
(2011年4月 訂正 追記)
(2011年5月 追記)