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Tのベラルーシ音楽コラム

ニーナ・カバリョーワ「尊敬をこめて」

 ベラルーシ民謡歌手ニーナ・カバリョーワのCD。民謡としてはとても珍しい2枚組で、全26曲、1時間40分収録の作品。(2003年発表。全曲ベラルーシ語。)

 ベラルーシの民謡CDは、大概民謡アンサンブル・グループが出すことが多く、個人の歌手が単独で発表することは少ないため、珍しい作品。 

私はこの歌手を知らないので、販売元の担当者に「どんな歌手ですか?」ときくと、
「中にベラルーシ語と英語の解説が入っているから、読んでみてね。」
と言われたので、家に帰って読んでみた。が、大した情報が全然書いていない!
 これだからベラルーシのCDは困るんだよ〜。日本ほど情報化社会じゃないのは分かるんだけど、情報が乏しすぎる! 歌詞カードが入っていることも非常にまれ。

 日本のCDだとたくさん写真の入った歌詞カードはもちろんのこと、歌手に対する評論家のやたら誉める解説やら、曲ごとの細かい解説やら、歌手へのインタビューやら、これまで出したCDのリストやら、おまけのカードやら、ファンクラブへのご案内やら、何かの割引券やら、ごちゃごちゃといっぱいついていればいるほど、手をかけ暇をかけて作ったCDで、曲を聴いていても自然に満足感を得られるという心理状態にさせている。

 それがいいのか悪いのかは別として、ベラルーシのCDはシンプルすぎるんだよね〜。
 このニーナ・カバリョーワのCDも「歌手名」「CDタイトル」「収録曲名」「歌手の紹介文(ベラルーシ語と英語)」ぐらいしか文章の部分がない。
 収録時間すら示されていない。こういうことが多いので、チロ基金がCDをバザーなどで販売するときは、曲名の日本語訳のほか、曲数と収録時間を私が調べていつも追加しているのです。
 
 それで、ニーナ・カバリョーワのベラルーシ語と英語で書かれた紹介文なんだけど、本当に大したことが全然書かれていない! (当然ながら、こういった紹介文を書いた人の名前も明らかになっていない。)
 でもとにかく読んで分かったことはといえば、ニーナ・カバリョーワは、音楽一家に生まれたこと、ベラルーシ民謡歌手として実績があり、ベラルーシ国内だけではなく、フランス、ドイツ、ギリシア、ベルギー、イギリス、カナダ、アメリカで海外公演を行ったこともある。
 ・・・ということぐらい。(このほかは「ベラルーシと言う国は秘密と冒険に満ちたおとぎ話のような国で、それを彼女は民謡の力で表現し・・・云々」といった、あまり意味のない文章がたくさん書かれている。もうちょっと歌手の経歴とか書けばいいのに・・・と思う。)

 この海外公演を行ったことがある、というのは、ベラルーシ人の歌手として、非常に大きなステータスであることらしく(確かに日本のアイドルっぽい歌手が、ちょっとアジア公演して観客が集まったりすると、「アジア人気も制覇」とか言って、たいしたもんだ、という言い方をマスコミがするものだけど・・・。)CDにその歌手の紹介文が載っている場合、
「こことこことこことこことここで、海外公演をしたことがあるんだよ。(えっへん! すごいだろう!)」
と、やたら細かく国名が挙げられている。収録時間すら、明記していないのに海外公演のところだけ、几帳面に述べる・・・ということは、ベラルーシ人歌手にとって、大変名誉なこと、自慢になるみたいです。
 とあるグループなんかは海外公演に行った国の中に「ロシア」「ウクライナ」「ポーランド」まで入れていて、大して自慢にならないような地名をせっせと紹介文に書いているけど・・・。

 それはさておき、ニーナ・カバリョーワその人は、私はよく知らないけれど(逆に下手な解説なんかないほうが、先入観なく聴く事ができていいかも。)実際は結構有名な民謡歌手らしい。
 そうでなかったら、ただでさえベラルーシ民謡CDなんて売れなくて、新作を作るという企画すら乏しい今、わざわざ2枚組CDを作るわけないと思う。
 経歴が分からないので、何とも言えないけど、ジャケットを見るとニーナ・カバリョーワさんは40歳ぐらいに見える。(でもベラルーシ人って老けて見えることが多いからなあ〜。年齢当ては自信ないです。)
 たぶん民謡歌手として一番脂の乗り切ったこのときに、歌手人生の集大成となるCDをいっちょ出したい! ということで企画になったんだろうな〜と思わせる。
 だから本人もまじめに熱意と愛を込めて歌っている。かといって激しく熱唱系でもない。あまりに張り切ったおばさん民謡歌手が熱唱しまくると、はじめはいいけど、だんだん聴いてるほうが疲れてきて、2枚組アルバムなんて、長時間聴いてられないよ・・・とうことがあるけれど、ニーナ・カバリョーワはそういうどぎつさがない。

 ある意味、物足りないと思うリスナーもいるかもしれないけど、私はさらーっと聴くことができて、時間がたつのが早かった。
 ニーナ・カバリョーワのまじめな歌い方は聴いていて気持ちがいい。声にも歌い方にもクセがない。特筆すべきほど美声の持ち主でもないにもかかわらず、彼女の世界に引き込まれていく。
 収録された全ての歌をニーナ・カバリョーワはもう何年も何十年も歌い続けてきたのだろう。

 アルバムタイトルの「尊敬をこめて」の詳しい訳(直訳)は
「これらの歌を創ったベラルーシ民族の先人たちに、深々とお辞儀します。」
という意味。(やっぱりまじめ。)
 
 2枚あるアルバムの内容の差もほとんどないが、2枚目のほうは収録曲が少ない代わりに組曲が多く、けっこう聴きごたえがある。
 それにベラルーシ民謡集、ということだけどあまり他の歌手が歌わない、あまり聴いたことのない歌がたくさん選ばれている。こういうベラルーシ民謡もあるのか、と私にとっては勉強になったCDでもある。

 ところで「民謡集」ということになっているが、ベラルーシ民謡以外の曲も収録されている。創作民謡、というのかな? ただ、作詞者は昔の著名なベラルーシ詩人な
ので、ベラルーシ人の間で親しまれている詩に最近の作曲者が曲をつけているようだ。
 こういうパターン(すでに故人になっている有名詩人の詩に現代作曲家が曲をつける)が、今のベラルーシ音楽界でよく行われている。詩が古いからといって曲も民謡風とは限らず、ロック調、ポップス系、合唱曲などいろいろある。こういう動きの中でベラルーシの新しい音楽が生まれているようだ。 
by ベラルーシのT
Date:2003/04/15(Tue) 07:47
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