箱人形劇
はじめに
ベラルーシは箱人形劇が発達した地域でした。
「でした」と過去形なのは、20世紀に入ってからすたれ、現在その芸を引き継いでいる人材が非常に少ないからです。
この箱人形劇は、2段に分かれた箱型の舞台の中で人形を動かすもので、舞台の正面は観音開きなっていて、開くと舞台、閉めれば携帯できる木箱に変ります。
ウクライナやポーランドでも盛んだったそうで、ベラルーシでこの人形劇が上演されるようになったのは、16世紀からだそうです。その後、ベラルーシを通じて、箱人形劇はロシアへ伝わりました。
ロシアでは独自のコメディー劇が創作され、街頭や縁日に旅芸人が上演していたそうです。
ベラルーシではコメディー劇はあまり創作されず、聖書のエピソード(キリスト生誕など)や、ベラルーシの民話を劇にした物が上演されていました。
しかし、20世紀に入ってから、箱人形劇はすたれ、上演されることもほとんどなくなってしまいました。
ところがソ連崩壊直前直後に起こったベラルーシ民族ブームの波に乗って、
「ベラルーシの伝統文化である箱人形劇を絶やしてはならない。」という声が上がり、復活さようとする努力が現在も続いています。
その中心となっているのは、普通の人形劇の関係者で、田舎へ行っては「子どもの頃、箱人形劇を見た」というお年寄りに劇の内容を聞き取り調査をしては、失われかかった伝統文化を何とか生き残らせようとしているそうです。
私(T)が最初にこの箱人形劇を見たのは、何とアニメでした。
ちょうど民族ブームのさなかに、ベラルーシ・アニメスタジオが製作した人形アニメで、劇中劇になっているのです。(人形が人形劇を見せる)
人形アニメの旅芸人(おじいさんと少年のコンビ)がとある町の広場にやってきて、
集まってきた人々にベラルーシの民話(桃太郎みたいな話)を題材にした箱人形劇を見せるのです。
見ているうちに町の人々といっしょに、この箱人形劇の世界に吸い込まれていきます。
このアニメは非常によく考えて作られていて、見終わった後、一生忘れられないような感動を覚えました。(ビデオに撮ればよかった。)
ベラルーシのアニメってすごーーーーい! と敬服してしまったぐらいです。
監督の名前は覚えていませんが、とにかく劇とは何か、芸術とは何か、ということを考えている人が作ったな、と思わせる作品でした。
こうして人形アニメで
「昔、大道芸人による箱人形劇というものがベラルーシにあったらしい。」
と知った私は、見る機会がないものかと思っていましたが、すたれかかった伝統芸能であるせいか、どこかで上演している、という情報も得られないままでした。
そうするうちに1999年の3月、チロ基金の活動として、翻訳した日本の絵本を
ミンスク市立結核診療所学校に寄贈することになり、基金の創立者である碓井さんもベラルーシに来られ、盛大に寄贈記念式典を行いました。そしたら、何とこの学校で「箱人形劇クラブ」がある、というので、碓井さんと見学させてもらいました。
そこでは二人の顧問の先生が、非常な努力でもって、子どもたちといっしょに箱型の舞台や人形の一体一体を手作りで作っていたのです。さらに子どもたち自身が上演できるように、ベラルーシ民話からシナリオを作り、劇の練習をしていました。
失われかかった伝統芸能が小学生の手によって生き返りつつある様子を見て、
この顧問の先生に頭が下がりました。
その他、ベラルーシのある地方都市にはこの箱人形劇の博物館がある、と教えてもらったのですが、まだ行っていません。(T_T)事前に予約すると、上演もしてくれるそうですが・・・。
いつか行ったら、またレポートします。
そして、2000年11月5日、ミンスク青少年会館でプロの方の箱人形劇を見ることができたのです!(感涙;;;)
演目は有名な出し物の一つで「ヘロデ王」。2段になっている上のほうの舞台で、まずキリスト生誕の様子が演じられます。
その後、ヘロデ王が、幼児を全員殺す命令をくだすという聖書のエピソードが下の方の舞台で演じられます。
上演していたのは女性が一人だけで、何役もこなし、さらに歌も歌い、もちろん何体も人形を動かすという
名人芸を見せてくれました。
この箱人形劇芸人ジュダノビッチさんに上演後、お話を伺うと元々は普通の人形劇の人形師として
働いていたそうですが、今は「おもちゃ・人形センター」というところで専属として働いているそうです。
このセンターに依頼すると、舞台の箱と人形を抱えて人形師が出張公演に来てくれるそうです。
(今度図書館で上演してもらおう。)
ジュダノビッチさんによると、最近はベラルーシの民話を元にアレンジ、創作をした劇が増えているそうです。
今度はそういうのが見てみたいなあ、と思いました。(^^) (2000/11/5 by T)
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