◆2001年大統領選挙◆

2001年9月9日はベラルーシの大統領選挙でした。
      直後に911事件が起こり、なんだか忘れ去られたニュースになってしまったかのようですが、ベラルーシにとっては、とても大切な問題なのです。(saba)

(2001/9 by T)

 ルカシェンコ大統領が再選しましたねえ。
だったら、これからベラルーシはどうなるのか?・・・というみなさまの疑問はちょっと横においといて、選挙の様子などお知らせします。

 投票は午前8時から午後8時まででした。午後3時には選挙成立に必要な有権者数60%の投票率を突破。最終的には82%の投票率となりました。
これはベラルーシでは珍しいことです。
「投票したってどうせ世の中変わらないもんな。」
と思って投票に行かない人が今まで多かったのですが、今回の大統領選は別。政治嫌いのS夫ですら、今回は必ず投票する、と言っていました。(投票するのは10年ぶりぐらい、と言っていた・・・)

 午後8時に投票が締め切られたのですが、昨日のベラルーシのテレビ局はどこも9時のニュースはなし。ずっとテレビの前で何かニュースやらないかなあと、待っていたら10時半頃ベラルーシ・テレビが投票の様子を簡単に報道。と言ってもまだ集計作業中で結果などは分からず、全欧安保協力機構*などから派遣された選挙監視団の人々のインタビューを流すぐらいでした。

*全欧安保協力機構=略称OSCE(The Organization for Security and Co-operation in Europe)。ホームページはこちらから(英語)。また、毎日新聞1999年11月19日付の記事で紹介されています(saba)

 監視団の中に日本人の方が一人いて、インタビューを受けていましたが
「日本では政治離れが進んでいて投票率が低いのに、ベラルーシでは投票率が高くてうらやましいです。」
と話していて、S夫と失笑。(^^;)
「でも候補者が3人とは少ないですね。」
とも言っていて、まあ確かにそうだなあ、と思いました。本当はもっとたくさん候補者がいたのですが、ルカシェンコ大統領に丸め込まれたりして、3人までに減ったのです。私としては3人の候補者が出ただけでも、へえ、すごいなと思っていたのですが・・・。
とにかくベラルーシテレビは監視団の人々が選挙について「不正行為などはありませんねえ。」とコメントしているのばかり放映していました。

ロシアのテレビ局が流したニュースを見ると、ミンスクの10月広場でルカシェンコ大統領再選に反対する人々が集会を開いている様子を報道していました。
(朝までやる、と参加者は気炎をあげていました。でも、投票が終わった後、いくら徹夜で大勢集まってもなあ・・・。)

私が見た限りでは街の中は特に変った様子もありませんでした。ただ、昼間ベラルーシ中のインターネットが使用不可能になってしまったそうです。(政府の差し金?)
私は昼間、忙しくてPCの電源も入れなかったのですが、このことはラジオがニュースで流していたそうです。
その反動か、夜の9時ごろインターネットに接続しようとしても「回線が混んでいます」の表示しか出ず、べラ部屋も開くことができませんでした。
投票の間、国民がインターネットにアクセスできないようにすることに、何か意味があるのだろうか・・・?
こんなことしているから、ルカシェンコ大統領は独裁主義だ、と批判され、再選反対者が集まってデモンストレーションするんですよー、もー。

選挙前

 私は選挙が始まるずっと前、何が何でも再選したいルカシェンコ大統領が、他の立候補希望者をみんな事前に潰してしまうんじゃないか、と思っていました。それで、立候補者はルカシェンコ一人だけで信任投票して終わり、というすごくつまらない選挙となり、万一不信任が信任を上回っても、適当に操作して数を変えてしまうんじゃないか・・・もちろんよその国の監視団など、国内に入れずに・・・そのやり方を西側諸国が批判し、最悪の場合経済ブロックをしかれ、ベラルーシ国内が混乱する・・・という最悪のプログラムも考えていました。

確かに立候補すれば、かなり強力なライバルになりそうだったナタリヤ・マシェロバ(ソ連時代、白ロシア社会主義国の書記長だったピョートル・マシェロフの娘。マシェロフは当時のモスクワ(ブレジネフがソ連書記長だった)と対立姿勢を取っていて、ベラルーシ人の間では絶大な人気を誇っていた政治家だったのですが、突然事故死。暗殺説が今でも消えていない。)・・・も結局ルカシェンコに言いくるめられて、立候補しなかったし。

とにかく正々堂々と選挙をすれば再選できない、とルカシェンコ大統領は恐れているのではないか、と思っていました。しかし、自分だけの独壇場になったり、選挙監視団は受け入れないと国際的批判を受けることになるし・・・ということで
「立候補を希望する者は、最低10万人分の有権者の署名を集めること。」
という条件を出しました。
(ルカシェンコ大統領はそんな署名がなくても立候補できる。)
我が家にも来ましたよー。立候補希望者に雇われたバイト君のような人が、
「XX氏が立候補できるよう署名をお願いします。」
と団地を一軒一軒回って署名を集めていました。
その結果、全部で3人の立候補者となったのです。

投票日前には、3人のポスターが町中に貼られ、「投票に行きましょう」の大型広告が立てられました。
以下は私の周りの人の意見に過ぎませんが、多かったのは
「私はとにかくルカシェンコには投票しない」「ルカシェンコ以外だったら誰でもいい」
と言う意見でした。
「でもどうせルカシェンコが再選するんだろうなあ。」「他の人になっても急に国が変るとも思えないけど。」
という意見も同時に言っていました。

この国が変る、というのはもちろん経済状況のことです。
他の二人の立候補者のうちどっちかが大統領になったとたん、ベラルーシの経済がすぐまともになるとは思えないけれど、もしかしたら、少しはよくなるかもしれない。でも、ルカシェンコが再選すると、間違いなくまた当分の間、ベラルーシの経済は低迷する・・・と思っている人が多かったです。
でも、投票には行く、と言う人は多く、確かに投票率は80%以上の高率でした。

総合すると、ベラルーシの国民は疲れきっていて、とにかく変化を求めている・・・という印象した。ルカシェンコ大統領が独裁的だから再選反対、という人は知識者階級には多いけれど、ごく普通の一般人は
「もし彼が経済のことを分かっていたら、大統領になってからの7年の間に、国の経済がよくなっていたはずだ。でも逆にインフレも不景気も悪くなる一方。もう他の人が大統領になったほうがいいのではないか。」
という、まともな経済状況を作れなかったルカシェンコ大統領に対する諦めと飽きが、再選反対の理由のようでした。
つまり、普通の生活を一般人は求めているだけなのです。普通の生活とは、給料と物価のバランスが普通である、というごく地味なことなのです。
みんな生活に疲れてるなあ・・・大統領選が生活が変るきっかけとなればいいと思っているなあ・・・という印象を選挙前に受けていました。
ですから、ルカシェンコ再選となっても、ぎりぎりの当選ではないか、と思っていました。

選挙後

しかし、選挙管理委員会の発表によると、ルカシェンコ大統領は76.6%の票を集め、大差で圧勝。
・・・この数字ちょっと嘘っぽいです。
これまでの私の周囲の人々の反応と照らし合わせると。
でも、都市部と地方では人々の意識は違うのかもしれません*。ルカシェンコ大統領はもともとコルホーズ出身だし。
8月には年金も引き上げたし。
他の二人の候補者が今一つぱっとしなかったのも、影響しているかも。

2番めに票を集めたのはゴンチャリク氏。(労働組合連盟代表。61歳で専門は経済だそうです。)
3番目はガイドケービッチ氏。(自由民主党党首。47歳でルカシェンコ大統領と同じ年齢。専門は軍事エンジニア・・・ってのがちょっとなあ・・・という印象でした。軍関係者が後押ししてそう。それとベラルーシの自民党は日本の自民党と全くちがっていて、政治を力でぐりぐり押し進めそうです。ロシアの自民党首ジリノフスキー参照。)

ゴンチャリク氏は「この選挙結果は捏造だ。」と10月広場で集まっていた人々の前に現れ演説。
「選挙のやり直しを!」
とルカシェンコ再選反対論者たちと叫んでいました。
でも
「選挙成立に必要な有権者数60%以上の投票率だったもんね。やり直しはしないよー。」
とルカシェンコに逃げられてしまうのだろうなあ・・・と思います。

おもしろいのは日本のマスコミが
「選挙監視団は選挙の正当性に疑問を呈した」(毎日新聞)
と報道しているのに対し、ロシアのオスタンキノTVのニュースでは監視団員が、
「不正行為はなかった。この選挙は正当なものである。」
というコメントを述べているのを報道していることです。

さらにロシアのプーチン大統領が早速ルカシェンコ大統領に「再選おめでとうコール」をしたと
報道し、ロシアがルカシェンコ政権を支持している姿勢をはっきりさせていました。
しかもロシアのニュース番組なのに、ベラルーシの大統領選結果がトップニュースになっているのに驚き。
(潜水艦クルスクの引上げ作業のニュースのほうが後だった・・・。そんなにベラルーシの政情にロシアの人が関心を寄せているとは思えないのですが。)

とにかく、ベラルーシの経済状態はあと数年は間違いなく低迷しそうです。ロシアとの統合もロシア側が、「ああ、いいよ。」と言い続ければ、ルカシェンコ大統領が思い描いているとおり進んでいくでしょう。(以上、私見。)

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